地震

Tさんが学生の時の話。
実家を離れてアパート住まいをしていた彼が、夕方に自室で寛いでいたその時、グラっと部屋全体が揺れた。
少し大きめの地震で、壁にぶら下げてあったカレンダーや、棚に飾ってあった模型なども小刻みに揺れている。
揺れ続ける部屋をぐるりと見回して、視線が窓に向かった時、そこにあった顔と目が合った。
窓越しに誰かの顔がある。
そのこと自体にも驚いたが、そもそも尋常の顔ではない。
窓の半分より大きいくらいの巨大な顔面だけが窓にはりついている。
その窓の大きさは縦150cmくらいだったから、顔の大きさは80cmくらいあったことになる。
髪の毛がなく、奇妙につるりとした卵型の顔で、男とも女とも判らない。
首より下はどこにもない。
ただ、大きな顔だけに毛穴の一つ一つまではっきり見えて、とても作り物には見えなかった。
あまりのことにTさんはそのままの姿勢から身動きできず、ただその顔面から視線だけは離せない。
当の顔面の方はそんなTさんにはあまり注意を払わない様子で、目だけを動かして窓越しに部屋の中をじろじろ見回している。
すっかり面食らっていたTさんだったが、やがて気を取り直して立ち上がろうとした時のことである。


ガッシャーン!


背後の台所で大きな音が響いた。
先程の地震で、立てかけてあったフライパンやらが崩れたらしかった。
一瞬そちらに気を取られてからすぐに窓に視線を戻すと、あの巨大な顔はもうなくなっていた。
ほっと脱力して、恐る恐る窓に近づき、ベランダにもあの顔らしきものがないことを確認した時、隣の部屋あたりから悲鳴が聞こえてきた。
更に一拍置いて、もう少し離れた所からもう一度悲鳴。
Tさんは、何があったのか見に行く気にはとてもなれなかったという。