本棚の奥

Nさんが大学に入学してすぐの頃のこと。
本好きのNさんにとって大学の大きな図書館は憧れだったので、空いた時間に早速行ってみた。
三階建ての図書館にはNさんがそれまで通った小、中、高はもとより地元の市立図書館と比べても蔵書が多く、ずらりと並んだ本棚に圧倒されながらNさんはあちこち見て回った。
そして二階の壁際の本棚に面白そうな本を見つけたNさんはその本を抜き出して読もうとしたが、ふとそこで意外なものが見えたような気がした。
本棚の向こう側に随分と奥行きがあるように見えたのだ。
そこでNさんはその目の前の棚から並んだ本を四冊ほどまとめて取り出してみた。
すると四冊分の隙間の向こう側に、はっきりとその奥の光景が見えた。
そこにはもう一つ大きな部屋があり、何列も長い机が並べられている。そしてそれらの机には、ぎっしりと人が並んで着席していた。
並んだ人々はみなこちらに背を向けて座っていたが、その後頭部が揃って丸坊主で、まるで僧侶の集団だ。
そういった様子が、窓から差し込む春の柔らかな光と天井の蛍光灯の光に照らされてはっきりと見えた。
彼らは何をしているのだろうと目を見張ったNさんだったが、図書館だから本を読んでいるか、あるいは授業か何かだろうと思い直した。
そして本を元の位置に戻したNさんは、周囲を見回してからやはりこれはおかしいのではないかと首をひねった。
たった今本を戻した棚は壁際に並んでいて、その向こう側に部屋があったとしてもその部屋へ通じる扉が見当たらない。
本棚の向こうに部屋が見えたのだから本棚を並べて部屋を区切っているのだろうが、並んでいるのは天井に届くほど背の高い本棚ではない。だから本棚の上に隙間ができるはずなのに、本棚の上には壁しかない。
一体どういう構造になっているのだろうか。
もう一度よく見てみようとNさんは先程と全く同じ本を抜き出して覗き込んだものの、その奥には今度は壁しか見えなかったのだという。