そうめん

Sさんが友人の住むアパートを訪ねたときのこと。
昼時になったので、何か外に食べに行かないかと友人に提案した。
すると友人は、昼はそうめんにしようと思ってたんだけど、と言う。
折角だからもっといいもの食べに行こうぜとSさんが言うと、そろそろそうめんにしないとうるさいんだよな、と友人は渋る。
うるさいって何が? と尋ねると友人は子供がうるさいんだよと言う。
友人はひとり暮らしだ。誰の子供がうるさいのだろう。近所の子だろうか。
それがそうめんとどう関係あるのか。
重ねて質問しようと口を開きかけたときである。
「そうめん」
部屋の中で声がした。子供の声だ。
しかしそこにいるのは友人とSさんだけ。
「そうめん」
もう一度聞こえた。空耳ではない。
何この声、と訝しむSさんに、友人は昼食の支度をしながら説明してくれた。
この部屋に引越してきてからというもの、時々部屋の中であの声がする。周囲に子供の姿はない。
スマホで録音しようとしてもなぜか録れないが、はっきり聞こえる。
無視しているとそのまま繰り返されるが、言葉のとおりにそうめんを食べると静かになる。
数日置くとまた聞こえるので、その都度そうめんを食べる。だから友人は週に二度ほどそうめんを食べる生活を続けているという。


お湯が湧いて麺が茹で上がるまで、子供の声は更に三度ほど聞こえたが、食べ始めてからは確かに聞こえなくなった。
お祓いでもしたほうがいいんじゃないの、とSさんが言うと、友人は首を横に振った。
そうめんは嫌いじゃないし、他に害はないから気にしてないんだ。そう言ってそうめんを啜った。
友人はその四年後に結婚して家を買うまでその部屋に住み、そうめんを食べ続けたという。