冷凍庫

Uさんが一人暮らしをしている友人のところへ遊びに行った。
楽しく酒を酌み交わしているうちに終電を逃してしまったので、そのまま泊めてもらうことになった。
すると寝る前に「そういえば」と友人が言う。
「夜中に起きても、冷凍庫は明けないでくれ。冷蔵庫の方は開けてもいいから」
Uさんは何のことを言っているのかよくわからなかったが、酔いも回っていたのであまり考えないまま頷いて畳の上に寝転がった。
何時間か経って、尿意を覚えたUさんは目を覚ました。
部屋の中もカーテンの向こうもまだ真っ暗だ。
じわりと痛む頭を押さえながらトイレに向かうと、誰かの声が聞こえる。
「寒い……」
友人が寝言を言っているのかと思ったが、よく聞くと台所の方から聞こえる。
静かにそちらに歩み寄ってみると、またはっきりと声が聞こえた。
「ここは寒い……凍えてしまう……」
か細い男の声が、冷蔵庫の方から聞こえている。
寝る前に友人が言っていたのはこのことだったのか?
どうしても気になったUさんは冷蔵庫の方を開けてみたが、そちらは友人も開けていいと言っていただけあって特に変わったところはない。
やはり冷凍庫の方に何かあるのか。
開けるな、と言われるとどうも気になってしまう。
しかし開けてしまって変なものが出てきてしまっても嫌だ。
そこでNさんは冷凍庫の扉にそっと耳をつけて中の音を聞いてみた。
その途端。
「そこにいるんだろ」
中から低い声が響いた。
ゾッとしたNさんは慌てて耳を離し、座敷に戻ると尿意も忘れて毛布をひっかぶり、そのままいつの間にか眠ってしまっていた。


朝になってから友人に尋ねると、何だか知らんが深夜になると声がするんだ、という返事だった。
「面倒だから声がした時には開けない。昼間は冷凍庫も問題なく使えるからいいんだ」
それでいいのか、と呆れながらNさんは友人宅を辞したのだという。