九十九/ 定期演奏会 その三

前日のアクシデントが嘘のように本番はほぼ滞りなく進み、三部構成の二部までを終えた。
十分間の休憩を挟んで、さあいよいよ三部が始まるというときに、会場である体育館の天井がダーッ! と大きな音をたてた。どうやら雨が降りだしたらしい。屋根が高いから遠く聞こえるが、音の感じからしてかなりの大降りである様子だ。だが急に激しく降りだした分、それほど長くは降らないかもしれない。
Sさんはお客さんが帰るまでに止むといいな、と思いながら楽器を吹きはじめた。


三部も特に問題はなく進み、アンコールまで演奏しきって喝采のうちに演奏会が終了した。曲が全て終わった時には、雨音は聞こえなくなっていた。
エントランスホールでお客さんを見送ると、すぐに会場の撤収、記念撮影をして、機材搬出の段となった。外は既に薄暗くなり始めていて、星がいくつか光っていたのが見えた。手際よくトラックへ積み込んで、搬入した時と同じ手順で手の空いたの者から徒歩で学校へと向かわせた。会場の責任者としては部長が残ったので、副部長であるSさんは早々に学校へと向かった。
歩き出して数分、僅かな違和感があった。何だろうと思いながら進んでいるうちに、Sさんははっとして立ち止まった。思わず興奮して隣を歩いていた同学年のEさんに話しかける。
「おいE、なんで地面、濡れてないんだ!?」
Eさんもはっとして見回すが、周囲の道路も植え込みも建物も、みな乾ききっている。まるで今日はずっと晴れていたかのようだが、雨音がしていたのはほんの一時間半ほど前のことだ。いくら通り雨だったとしても、あれだけ大きい音がしていたのだ。少しは水溜りもできただろうし、こんな短時間に乾ききるものではないはずだった。
Eさんが言った。
「そういえば、体育館の駐車場も濡れてなかったな……雨、降ってたよな? 」
「うん……音、鳴ってたな」
確かに屋根の音は、雨音のはずだった。しかし外はどこも濡れていない。
ならば雨は、体育館の屋根にしか当たらなかったのだろうか。それともあの音は、雨以外の何かだったのだろうか。