九十一/ 銀杏と雀

Tさんが連休を利用して久しぶりに実家に帰省した。仕事が終わってから向かったので、付いた時にはもう深夜で、到着早々部屋に下がって休んだ。
翌朝は小鳥の声で目を覚ました。起き上がってカーテンを開けると、二階にあるTさんの部屋の窓からすぐ目の前に見える庭の大銀杏の枝に、雀の群れが留まって喧しく囀っている。雀は警戒心が強い鳥なので、そんな至近距離でカーテンが動いたら驚いて飛んでいってしまいそうなものだが、なぜかTさんには一向に構わずにそのまま枝に留まっている。
(珍しいこともあるもんだな)
そう思ったTさんはさらに窓までも開けてみたが、やはり雀は動じない。数分間その様子を見ていたTさんだったが、飽きてきたので窓を閉めて朝食を摂りに階下へ向かった。
台所には両親がいたので、Tさんはふと今見たものを話題に出した。「今朝は雀の声で目が覚めたよ。庭の銀杏に群れが来ててさ」
両親は不思議そうな顔をして言う。
「庭に銀杏なんてもうないよ」
「は? 」
「あんまり大きくなって枝が屋根に触るようになってきたりして、邪魔なもんだから去年切っちゃったんだよ。昨日庭見なかったのか? 他の木を銀杏と間違えたんだろう」
あわててTさんが庭を見に行くと、確かに以前銀杏が立っていた場所には大きい切り株があるばかりだった。昨夜は暗かったのでよく見えなかったのだ。
それでは先程雀がいたのはこの木ではなかったのだろうか。もう一度Tさんは部屋に戻って、窓から庭を覗いてみた。
するとそこには、銀杏の木の枝など影も形もなくなっていた。