七十八/ 線香花火

学生時代、Oさんは学生寮に住んでいた。
アルバイトが忙しかったのでその冬は帰省せずに寮で年を越したのだが、そんなある日の真夜中のこと。
パチパチという音で目が覚めた。ああ花火か、と半分眠りながら思う。
一瞬して、花火? と疑問に思った。そこは寮のOさんの部屋の中、ましてや真冬のことだ。花火などあるはずがない。急に頭がはっきりしてきて、目を開けた。
視界に入ったのは、五、六歳くらいの男の子だった。俯いていて顔はよく見えない。真冬なのに半袖半ズボンだ。部屋の隅にしゃがんで微動だにせず、手に線香花火を持っている。線香花火が火花を散らすのに合わせてパチパチ小さな音がする。
呆気に取られたOさんがそのまま数分間ぽかんと眺めていても、奇妙なことにその線香花火は一向に燃え尽きる様子がなかった。
しかし何と言ってもそこは室内である。男の子が何者でどうやって侵入してきたのかはさておき、火事になっては大変だ。ようやく気を取り直したOさんが花火をやめさせようと上体を起こした途端、花火がふっと消えてそれと同時に男の子の姿もぱっと消えた。


あとには火薬の臭いだけがつんと残っていたという。