三十七/ 繁盛している美容院(50/100)

Hさんがその美容院に行ったのはその日が初めてだったのだが、入った瞬間「あ、何かおかしい」と感じたという。
それはともかく髪を切ってもらっていると、向かった鏡越しに店内にいる人が見える。
この店は結構繁盛しているようで、人の出入りが多い。
しかし最初、Hさんはいまいち店員の接客が不十分だなと思った。
新しく店内に入ってきた客がいても、いらっしゃいませと声を掛けたり掛けなかったりする。
声を掛けない時は、本当に誰も反応しない。
まるで、誰も入ってきていないかのようである。
しかし何か違和感がある。
何回か人の出入りを眺めて、Hさんは気がついた。
店員が声を掛けない時は、自動ドアの音がしないのだ。
とすると、さっきからの数人はどうやって入ってきたのか。
なるべくそれ以上考えないようにして整髪が終わるのを待った。
ようやくセットが終わって椅子から立ち上がった時ふと見ると、ソファーで順番待ちをしているのはたった二人だった。
明らかに少なく感じたが、もう一度鏡を見ないようにしてHさんは美容院を出た。
それ以来その店には行っていないという。