Hさんが小学生の娘を行きつけの美容室に連れて行った時のこと。
娘の散髪が終わって会計をしたところ、娘が床にしゃがみこんでなにかしている。
手元をのぞき込むと、娘は切った自分の髪を丸めて遊んでいた。
――そんなことしたら、手が毛だらけになるでしょ!
そう言ってやめさせると、娘はしぶしぶ毛玉を床に放り捨てた。
するとその毛玉がひとりでに転がってゆく。
店内にはエアコンは効いているものの風はほとんどない。
床に散らばっている他の毛もほとんど動いていない。
しかし娘が握って作った毛玉だけは、まるでネズミかなにかのように床の上をすいすい動いてゆく。
あっという間に店の入り口まで転がっていった毛玉は、そのまま扉の下の隙間に吸い込まれるようにして消えた。
娘は「すごい!何、今の?」と喜んでいたが、Hさんも店員も唖然とするばかりだったという。