二十一/ 湖を望む

約三十年前の話。
ある山間の森にリゾートホテルが建っていた。
五階建てのこのホテルには、時々起こる現象があった。
五階の宿泊客が、客室から目の前に広がる大きな湖を見るのである。
――ホテルの入り口から反対側にあるから来た時は気付かなかったのか。
そう思った客は湖畔に行ってみようとするが、ホテルを出てみるとそんな湖はどこにもない。
部屋に戻ってみるとやはり窓の外に見えるのは山と森だけである。
ホテルの従業員はたびたびあるはずのない湖について聞かれるので、揃って首を傾げていた。


そのホテルも経営難により僅か五年ほどで廃業した。
現在廃墟となった元ホテルの眼下には、約二十年前にできたダム湖が青々と広がっているという。
そのホテルの元従業員の方から聞いた話である。