四十一/ 木造校舎 その四(55/100)

また、こんなこともあったという。
授業中、教室のすぐ外の廊下を歩く音がする。
前述のように、この校舎の床板は誰かが歩くとギシギシ音を立てる。
平素から校長先生や用務員さんなどが授業中も廊下を通り過ぎていくことはあったので、それだけなら別段気にも留めなかったのだが、その時の音は教室の前の廊下を行ったり来たり早足で繰り返すので、じきに耳障りになってきた。
Tさんはとうとう我慢できなくなり、苦情を言おうと引き戸を開けた。
するとあれだけうるさかった音はピタッと止んで、廊下には人っ子一人いない。
廊下を右から左に見渡したが、何の気配も感じられなかった。
何やら夢でも見たような気分になって引き戸を閉めたその時、ばたばたばたっと駆け足で廊下の向こうから近づいてくる音がして、今閉めたばかりの引き戸の前で止まった。
今度こそ誰かいると思ってTさんはすぐに戸を開けたが、やはりそこには誰もいない。
異変を感じてざわつく児童をなだめて、今度は戸を開けたまま授業を続けることにした。
それ以降は足音も現れなかった。
不思議なことに、あれほどうるさかったはずの足音は隣の二年生の教室では全く聞こえなかったと後に聞いた。

例の如くTさんは言う。
「やっぱりね、気のせいなんですよ。だって誰もいなかったんですから」