十二/ 赤い何か

小学校の教員をしているTさんは言う。
「やっぱり、子供にはそういうものが見えることもあるみたいですね」


Tさんが受け持っていたクラスに、教室でひどくおびえる児童がいた。仮にA君とする。
話を聞いてみると、黒板に向かって左側の辺りに"赤い人"がいるという。
もちろんそんなものはTさんには見えない。
他にそういうことを言う児童もいないので、不気味には感じたもののとりあえずA君をなだめ、その話はそれきりになった。
A君はその後も決して教室のその場所には近づこうとはしなかった。

年度が改まってTさんは違うクラスの受け持ちになった。
二週間ほどしてある先生から相談を受けた。
その先生のクラスに、教室でひどくおびえる児童がいるという。仮にB君とする。
話を聞いてみると、教室に"赤いもの"がいる、と話すらしい。
その先生のクラスは、前年度Tさんが受け持っていたクラスと同じ教室である。
B君がA君の話を聞いて真似しているのかとも思ったが、B君はその四月から転校してきた子で、A君とも家は離れているし、他に繋がりがあるとも思えなかった。
Tさんはやはりあの教室には"赤い"何かがいるのだな、と思った。

その後もその学校にいる間、何度かその教室の"赤いもの"に関する話を聞いたという。
常に見るのは子供だけで、教師が見たという話は聞かなかった。
色が赤いということだけは共通していて、形は人であったりよくわからないものであったりまちまちのようだった。