腹痛

小学校教師のEさんはその日、家を出てからすぐに脇腹の痛みを覚えた。
初めはチクチクと刺すような痛みが時々わずかに顔を覗かせる程度で、それほど気にはならなかった。
しかしやってくる痛みの間隔が昼頃から徐々に短くなり、強さも増してくる。
何とか午後の授業の間も痛みに耐え、早退して病院に行った方がいいだろうかと思っている所で一際大きな傷みに襲われた。
それは息もできないほどの激痛で、Eさんはたまらず床に膝をついてしまった。
折悪しく場所は教室で、児童たちはもう一人も残っておらず、周囲に他の先生の姿もない。
そのまま意識を失ってしまっては誰にも見つけてもらえず、手遅れになってしまうかもしれない。
そんなのはいやだ、何とかして誰かに救急車を呼んでもらわなくては。
しかし誰かが廊下を歩く気配などしないし、仮に誰かが通りかかったとしても酷い痛みで声も出せそうにない。
どうしよう……。
脳裏に夫やクラスの児童たちの顔が浮かんだ。
そうして痛む脇腹を抱え、切れ切れに息を吐きながら必死に痛みに耐えていたところで突然誰かの声がした。
「痛いの?」
子供の声だった。
そちらに目をやるとひとりの女の子が立っている。年格好は小学三年生か四年生といったところか。
Eさんの受け持つクラスの児童ではない。それどころか、校内で見た覚えのない女の子だった。
誰だろう、と思ったものの、痛みのせいで考えがまとまらない。
意識が朦朧としながらも女の子を眺めていると、その子はEさんの方へと近寄り、痛む方の脇腹へと手を伸ばしてきた。
そしてその手がEさんの脇腹へ触れた途端、女の子の体は伸ばした腕から順番にEさんの脇腹へずるずると吸い込まれていった。
その最中は特に何の感覚もなく、ほんのりと脇腹が暖かく感じた程度だったが、自分の脇腹へと人が吸い込まれていくのを見るのはひどく不気味で、Eさんは思わず悲鳴を上げて後ずさった。
しかしその時にはもう女の子は足の先まですっかり脇腹に吸い込まれた後で、跡形もない。
いったい今のは何だったの、と脇腹をさすってみたが特に何か変わった様子もなかった。
と、そこで気付くと先程あれだけ苦しんでいた激痛もきれいさっぱり消えてしまっている。
痛みのあまりに幻覚でも見たのかな、と考えたが痛みが消えているのは現実だった。
一体どこからどこまでが本当にあったことなのか、Eさんにはさっぱりわからなかった。


一応、後で半休をとって病院に行ったものの、特に何の病気も見つからなかった。
しかし同時にEさんの妊娠が発覚。
……翌年生まれた子供は女の子だった。