夜の十一時頃、仕事帰りのRさんが歩いていると脇のコンビニから背広姿の男がひとり出てきた。
そのままRさんの十メートルほど前方を同じ方向へ歩き始めたが、その足取りがどうも危なっかしい。歩道の上を左右へよろけながらようやく歩いているという様子だ。
どうやらかなり酔っているらしい。
夜の住宅街で車の通りはまばらだが、車道へふらふら出ていってしまっては事故の元だ。いざとなったら歩道へ引き戻すつもりで、Rさんは彼を眺めながら進んだ。
すると急に歩道の右から誰かが飛び出してきて、酔っ払いの男に勢いよくぶつかった。
そしてそのまま姿を消した。
Rさんは目を疑った。酔っぱらいにぶつかってそのまま通り過ぎていったり、来た方向へ戻っていったわけでもなく、酔っぱらいと並んで歩いているわけでもない。
酔っ払いにぶつかった瞬間にふっと消えたようにしか見えなかった。
暗くて見間違えたのかとも思ったが、どうも誰かがぶつかったのは確かなようで、酔っ払い本人も呂律の回らぬ声を発しながら周囲を見渡している。
しかし酔っていい気分のせいか、大して気にする様子もなくまた歩き始めたので、Rさんもそのまま足を動かした。
すると、また少し歩いたところで誰かが右から飛び出してきた。先程と同様に勢いよく酔っ払いにぶつかり、そしていなくなった。
まただ。どういうことだ。
酔っ払いはまたしてもきょろきょろしながら、そのまま歩いている。
Rさんはそこでひとつ気がついたことがあった。
最初に見たときよりも歩き方がしっかりしてきたな。
コンビニから出てきてすぐはヨタヨタして足取りがおぼつかなかった酔っ払いが、勢いよく誰かにぶつかられるたび、しっかり歩けるようになってきている。
ぶつかられた衝撃で酔いが覚めたのだろうか。それにしても短時間で急に覚めすぎなようにも思える。
いぶかしむRさんを尻目に、その男はずいぶんしっかりした足取りで夜の住宅街を去っていったという。