Fさんの通っていた中学校には「資料室」と呼ばれる部屋があった。
資料と言っても授業に使うものが仕舞われている訳ではなく、地元の古い民芸品やら古い本やらといった郷土史の資料がただ納められているだけで、大抵の生徒はほとんど足を踏み入れることなく過ごしていた。
ある時、社会の先生が気紛れにこの部屋から古道具を引っ張り出して授業に使った。
学級委員だったFさんは、先生に頼まれてこの古道具の片付けを手伝うことになった。
授業後、FさんとクラスメイトのT君は先生の後を付いて資料室に向かった。
資料室は特別教室棟の一階の奥にあった。
先生が鍵を取り出し、ドアを開けた途端。
うえっ?
Fさんの目の前にいたT君が変な声を上げた。
次の瞬間、叩きつけるような勢いで先生がドアを閉めた。
T君が顔をしかめて言う。
――先生、これ、ここに置いといていいですか?
先生がこわばった顔で答えた。
――ああ、とりあえず廊下でいいや。
T君はすぐに持っていた古道具を廊下の隅に下ろすと、Fさんにもそうするよう促した。
Fさんは何が起きているかさっぱりわからなかったが、とりあえず言われるままに道具を置くと、T君の後に付いて教室に戻った。
一体どうした?
教室に着いてからT君に尋ねると、逆に聞き返された。
――お前、見なかったのか?
資料室の中のことならば、FさんはT君の後ろに立っていたので陰になって見えなかった。
そう答えると、T君は俯いて言った。
――資料室の中にな、爺ちゃん婆ちゃんが何人も立ってたんだよ。ぎっしり。
何だそれ。Fさんが聞き返すと、T君は首を振った。
――そんなんわかんねえよ。でも、絶対普通じゃないって。着物着た爺ちゃんと婆ちゃんが何人もあんな所にいてさ。鍵かかってたのに。そんでみんなこっち見てたんだよ。
そういえば確かに先生はあの時、鍵を開けていた。本当に部屋の中に老人が沢山いたのなら、鍵を掛けた部屋で一体何をしていたというのか。
そして先生は、なぜあんなに急いでドアを閉めたのか。知らない人がいたとしても、閉める必要はないではないか。
後で先生にこの時のことを聞いてみても、はぐらかされるばかりではっきりしたことは何も教えてはくれなかった。
T君は翌日から熱を出し、三日間学校を休んだという。