廃車置場

Oさんが子供の頃、近所に廃車置場があった。
当然、部外者は立ち入り禁止だったが、敷地も広く大人の目も届きにくい。
いつのまにか、悪ガキたちが潜り込んで遊び場にするようになった。
Oさんもその中の一人で、学校が終わると友達と一緒になってここで遊んだという。
滅多に大人は来ないし、自動車が何台も積み上げられている景観は何やら冒険心をくすぐられるものがあった。
そんなわけで、お気に入りの遊び場だったのだ。


ある日、いつものように廃車の間を駆け回っていると、友達のMが「あっ」と声を上げて蹲った。
みんなが駆け寄ると、Mは泣きそうな顔をして脚を押さえている。
よく見てみれば、Mの右脚の臑の下半分くらいが土に埋まっている。
どうやら、偶々開いていた穴に足が嵌まってしまったらしい。
Mは何とか自力で立ち上がって脚を引き抜こうとするのだが、うまくバランスが取れないのか、すぐ蹲ってしまう。
仕方がないので、みんなでMを引き上げようということになった。
Mの肩やら腿やらに手を掛けて引っ張ったものの、なかなか上手くいかない。
無理に力を込めるとMが痛がった。
しかしあまり時間をかけていると、日が暮れてしまう。
立ち入り禁止の場所で遊んでいる手前、あまり帰りが遅くなることは避けたかった。
多少Mが痛がっても、力尽くで無理矢理引き抜いてしまうことにした。
案の定Mは痛がって声を上げた。
ちょっとオーバーな痛がり方だなあ、とOさんは思ったが、とりあえずMの脚を引き抜くことには成功した。
しかしMは再びその場にしゃがみこみ、泥だらけの脚を押さえて泣き出してしまった。
それだけではなく、額には苦しそうな脂汗まで浮かんでいる。
これはどうやら只事ではない。
どこが痛いのか聞いてみたものの、Mは「あしが、あしが」とばかり繰り返して要領を得なかった。
見たところ靴も元通り履いているし、大した外傷は無いように思えたが、骨でも折れてしまったのだろうか。
Oさんもこれはしまったと思ったが、仕方が無いのでMに肩を貸して連れて帰ることになった。


その後、Oさんたちは親からこっぴどく叱られて、廃車置場には以後近寄ることを厳重に禁じられた。
Mはというと一週間ほど学校を休んだ後、そのまま転校してしまった。
どうやらあの廃車置場での怪我が酷かったらしい。
どんな怪我だったのか、その時には誰からも教えてもらえなかったのだが、数年後になってからお母さんに聞かされたという。
――M君の足ねえ、ほとんど傷なんか無かったのに、指の骨が何本か無くなってたんだってよ。あんた達があんな所で遊んだから。
あんな所ってなんだよ、あそこに何かあるのかよ、と聞き返したが、首を振るばかりで何も教えては貰えなかったという。