いたたたた

五年ほど前、真冬のよく晴れた夕方だったという。
高校生のEさんはいつものように友人二人と一緒に土手の上の道を帰宅途中だった。
三人とも自転車に乗っていたが、先頭を走っていた友人が急に停まったかと思うと、自転車を横倒しにして地面にうずくまってしまった。
「いてっ、いたたたた」
脚を押さえて顔を歪めている。
なんだ、急にどうした、と自転車を停めたところでEさんも突然肩が重くなった。重さはすぐに締め付けるような痛みに変わり、肩から首にまで広がった。
Eさんもたまらずその場に膝をつき、首を押さえた。痛くてたまらない。全身から汗がどっと吹き出したのがわかった。
もう一人の友人に目をやると、こちらも肩を押さえてしゃがみこんでいた。
一体何が起こったのか全くわからない。何かにぶつかったわけでもないのに急に体が痛みだした。
三人とも体が痛くてたまらず、とても自力で帰れそうにない。
仕方なく携帯で家に連絡し、Eさんの親に車で迎えに来てもらい、そのまま病院に直行した。
Eさんはむちうち症と診断されたが、最初に痛みを訴えた友人は右足の骨にヒビが入っており、もう一人の友人は左肩が脱臼していた。
怪我をした状況について親や医師、警察官に問い質されたのだが、Eさんたちとしてもさっぱり説明がつかない。
三人一遍に車にでもぶつかられたような怪我の仕方なのだが、三人がその時いたのは土手の上のサイクリングロードで、車は入れない。そもそも三人は車など見ていないし、他にぶつかりそうなものもなかった。
しかし辻褄が合わないので警察や親には怪しまれてしまい、何度も同じことを確認されてしまったが、Eさんも他に説明のしようがなかった。


「まあ結局のところ警察にどう判断されたのかはっきりしないんですが、その後詳しく捜査されたりとかはなかったです。けど、もうひとつ変なことがあって」
一週間ほど後、首の痛みも引いてきたので再び自転車に乗ろうとしたEさんはペダルを踏んで驚いた。
自転車がひどく耳障りな音を立てる。すぐに降りて様子を見ると、油がすっかり切れているようだった。
親に聞いてみても、自転車は土手から回収して以来触っていないという。
怪我をした時までは静かに乗れていたので、あの時に自転車にも何かあったようにしか思えなかった。しかし怪我と油が切れたことについてどう関連しているのか、いくら考えてもわからなかったという。