大学生のNさんが、ある講義でグループを組んでレポートを作ることになった。
同じグループになったのはたまたま近くの席だった同学年のEさんとKさんで、手分けして資料を揃えてからまとめることになった。
締切の三日前の夕方にKさんの部屋に集まり、夜七時前に作業に目処がついた。
ちょうど夕食時だから外に何か食べに行こうか、と話していたところで頭上から変な声がした。
「ぽっぽー、ぽっぽー、ぽっぽー」
壁に掛けてある時計から声が聞こえる。鳩時計のようだが、時計の見た目は単なる丸い掛時計で、鳩が飛び出してきたりはしていない。
文字盤は七時ちょうど。正時になると音声だけが鳴る時計なのだろう。そう思った。
しかしその音声が、鳥の声ではなく、人の声にしか聞こえない。やる気のなさそうな女性の声で、鳩の鳴き真似をしている。
なんとも力の抜けるようなその声に、Nさんはつい笑ってしまった。
猫かわいい。この時計どこで買ったの? ――そう言ったのはEさんだった。
Eさんには猫の声に聞こえたという。NさんもKさんも首を捻った。
猫じゃなくて女の人の声だったでしょ? Nさんがそう言うと、Kさんはいやいやいや、と首を横に振る。
――二人してなに? 何の話をしてるの?
Kさんは怪訝な顔で言った。Kさんの部屋の掛時計に、音声が鳴る機能などないというのだ。
しかしNさんもEさんも、七時ちょうどに時計から音声が流れたのをはっきり聞いている。ただ、聞いた音が食い違っているのが奇妙ではあった。
いや、そんな声なんてしてなかったって。いつもしないし。さっきだって五時にも六時にもそんなの聞こえなかったでしょ。
Kさんのその言葉で思い返してみると、確かにそうだった。七時だけに鳴るのは不自然だろう。
じゃああの声はなんだったの。
さあ?
顔を見合わせていると、三人のスマホが一斉に鳴り始めた。
「ぽっぽー、ぽっぽー、ぽっぽー」
先程の時計と同じ音声が同時に鳴っている。そんな着信音はNさんのスマホに入っていない。
えっ、どうして、と狼狽えながらスマホを取り出したところで声が急に変わった。
「ぎゃはははははは!」
けたたましい笑い声がそれぞれのスマホから炸裂し、それきり静まり返った。
履歴を確認したがそれらしき着信がない。
EさんもKさんも涙目になっている。今度は二人とも同じ声が聞こえたらしい。
スマホに変なウイルスでも入っているのではないかと心配になったので、Nさんは帰宅後にスマホを初期化した。
その効果かどうかはともかく、その後Nさんに同様のことは起こらなかった。
この件で気まずくなったわけではないが、EさんKさんとはその後付き合いがなかったので、彼女たちのほうに何かあったかはわからないという。