三十三/ 背後(29/100)

Sさんは高校生のとき、吹奏楽部に所属していた。
ある日の合奏中のこと。
パシーン!という大きな音がして、指揮者が頭を押さえた。
定規か何かで勢いよく叩いたような音だったという。
指揮者は不思議そうに後ろを振り向くが、何も変わったところはない。
皆は何が起こったのかわからず、ぽかんと指揮者を眺めている。
「いや、今俺の頭が後ろから叩かれたんだけど……あれ?」
指揮者はそう言うが、彼に誰も近づいていなかったのはその場の皆が見ている。
結局何もわからないまま、練習は続けられた。