二十七/ 糸瓜

Sさんの家では瓢箪や糸瓜を作ってはいけないという戒めが代々伝わっている。
Sさんのおばあさんが嫁いできた時に、Sさんのひいおばあさんからくれぐれもと言い含められたそうである。
しかし理由については聞かされなかったので、謂れについて知っているものは現在絶えている。
とにかく瓢箪や糸瓜の類は育ててはいけないらしく、Sさんと同じ名字を名乗る親戚はどこもそれを守っている。


Sさんが小学生の時、学校で糸瓜の種をもらった。
学校の畑に蒔いた残りだった。
そのころSさんはまだその戒めを知らなかった。
一緒に貰った級友が育てるというので、Sさんもどこかに蒔いてみようと思い、自宅の裏庭に埋めた。
普段から放置されている一画で、家人も滅多に草抜きしないようなところなので、結局実がなるまで家族で糸瓜に気がつくものはいなかった。
順調に育った糸瓜は、三個の実をつけた。
程よい大きさになったところで、初めておばあさんが気がついた。
おばあさんはSさんが学校に行っている間に糸瓜を根こそぎ刈り取り、実以外は焼却してしまった。
帰宅したおばあさんはSさんに残った糸瓜の実を見せ、咎めたりすることなく戒めのことを教えてくれた。
そして庭に糸瓜を持ち出すと、Sさんの見ている前でそれを地面に叩きつけた。
糸瓜は地面に激突すると風船の如く弾け、中からは濁った水が噴き出した。
同じ頃学校で見た糸瓜は、決して中にそんな水が入ってはいなかった。
残り二つも同様、中身は泥水だった。
異様さに息を呑むSさんに、おばあさんは言った。
「うちじゃ、糸瓜を育ててもこうなっちゃうんだ。だからもう糸瓜や瓢箪は作るんじゃないよ」
おばあさんも嫁いできてから一度だけ、糸瓜を作ったことがあったという。
やはりまともなものができなかったらしい。
「お前にも早く教えておくべきだったねえ……」
おばあさんは詫びるようにそう言った。