二十四/ エレベーター その一

Aさんは学生の頃、幽霊が出ると評判の廃墟へ忍び込んだことがある。
元総合病院であるその建物は交通が不便であることから使われなくなり、十年以上放置されていた。
Aさんは友人と二人で夜中の一時ごろにこの廃墟を訪れた。
闇の中、崩れて雑草に埋もれた門を抜けると、ロータリーと出入り口があった。
Aさんたちはとりあえずこのドアから入ってみることにした。
観音開きのドアは錆付いて動きは固かったものの、鍵はかかっておらず無事開いた。
その奥にもやはり観音開きのドアがあったのでこれも開く。
Aさんはそこで思わず友人と顔を見合わせてしまった。
入り口のドアの向こうは、当然受付のロビーや廊下が続いているはずである。
しかし懐中電灯で照らされたそこは、なぜか小さな部屋になっていた。
左右と奥の壁には腰の高さに手すりが設けられている。
床を見ると、開いたドアと中の小部屋の境目は部品が途切れているように見える。
どう見ても、この小部屋はエレベーターに思える。
しかし、出入り口にいきなりエレベーターがあるのはどうもおかしい。
おかしいのだが、それを口に出してしまうと何かとんでもないことが起こってしまいそうな気がして、Aさんは無言でドアを閉めた。
友人ともども黙ったまま、入ってきた扉を出て十数歩ほど歩いたとき、ふと出てきた建物を振り返った。
出てきた扉からその奥にあると思われるロビーのあたりまで、建物は一階建てだった。
平屋部分にエレベーター?
それ以上あまり考えないようにしながら、逃げるように帰ったという。