二十九/ 古戦場 その二

その大学に通っていたEさんは、キャンパスから徒歩二十分ほどのアパートに下宿していた。
友人の中でも一番大学に近い住まいだったので、よく友人達の溜り場になっていた。
その日も友人三人と深夜まで飲み会をしていた。
日付が変わったころ、友人の一人が幽霊を見に行かないかと言い出した。
Eさんはいい加減アルコールも回って眠くなっていたので、友人三人だけが暗い中を大学へと出かけていった。

一時間ほど後、Eさんが一人でうとうとしていると、ものすごい勢いで友人達が駆け込んできた。
血相を変えた友人達はEさんにガムテープを出せ、と詰め寄ると、鍵を掛けたドアと窓に目張りをし始めた。
目張りが終わると今度は古新聞を丸めて台所と風呂場の換気扇に詰め込んだ。
作業が終わると、急いでカーテンを閉めて布団を被りじっと縮こまってしまった。
見れば大の男がガタガタ震えている。
あまりの剣幕に呆然と見ていたEさんだったが、気を取り直して友人達に問いただしてみた。
目を血走らせ、脂汗を浮かべた友人達の言うことは一様に要領を得なかったが、どうも何かを見たらしい。
友人達は朝まで怯え通しだったが、結局Eさんの部屋では何も起こらなかった。


その友人達は程無くして大学を辞め、郷里に帰ってしまった。