「二十二/ 山道」と同じIさんの、違う山での話。
Iさんが友人二人と山道をドライブ中、突如霧が濃くなってきたのでこのあたりで一度休憩しようということになった。
止まっている間に霧が晴れてくれるかもしれない、という期待からだったのだが、三十分経っても見通しは改善しない。
春先のことで肌寒くなってきたこともあり、仕方なしに出発することにした。
数分走った所で前方に妙なものを見つけた。
最初は道を緑色の壁が遮っているように見えた。
近寄ったところでIさんたちは呆然とした。
道路を横切って、牛の群れが悠然と歩いてゆくのである。
数は少なくとも十五頭から二十頭はいたという。
しかも並の牛ではない。
頭から尾まで全身緑一色なのである。
いくらなんでも緑色の牛というものがいるはずがない。
しかもそこは、近くに牧場などない山の中である。
仮に牧場が近くにあったとしても、こんな林の中に放牧などしないだろう。
この牛は一体どこからやってきたというのか。
Iさんたちが絶句している前を、牛の群れはゆっくり横切って雑木林の中へ消えていった。
牛達が去った後、霧は急に晴れていったという。
後で調べてみたが、その近くにはやはり牧場などなかった。