kwaidan
Kさんは二年間アメリカに留学していたことがある。その時滞在していたのはアメリカ北東部にあるMという街だった。アメリカ北東部には湖や湿地が多い。Mにも隣接する大きい湖があった。古くは原住民の聖地であったらしく、湖岸には祭壇の跡といわれる石組…
山国に住むYさんのおじいさんは役場の仕事でよく山に入っており、またキノコや山菜を採ることを趣味にしてもいたのでYさんが子供の頃にはよく山で体験した話を聞かせてくれた。この話はそうやって聞かされた話のひとつである。 おじいさんが役場に勤めはじ…
十数年前、ある老日本画家が亡くなった時のこと。 不慮の事故で腰の骨を折る大怪我をして以来床から出ることも儘ならず、数年来自宅で寝たきりの末の死だった。朝方息をしていなかったのが家族に発見されたという。 すぐに医者を呼んだところ死亡が確認され…
Fさんのお母さんの実家は、その地域でかなり古くから続いている名家だったが、お母さんの弟、つまりFさんの叔父が後を継いで暫くしたころ、事業に失敗し、多額の借金を抱えた末に土地屋敷を手放すことになってしまった。当主の叔父さんは土地屋敷を手放し…
Aさんという中年女性がデパートの呉服売場の古着コーナーで、色打掛を見つけた。朱色の地に金糸銀糸で花々の刺繍が施された鮮やかな一品で、ひと目で気に入ってしまい、手頃な値段だったこともあってその場で衝動買いした。派手なので自分ではとても着られ…
Sさんが海に夜釣りに行った。仲間二人と一緒に船で沖へ出た。月も明るく風も無く波も穏やかな夜だったという。連れとは反対側の船べりに立って糸を垂らすこと二時間ほど。ふと気付くと、水音が聞こえていた。 ぱしゃぱしゃ。 魚が跳ねているのかな、と思っ…
近所に白蛇を祀ったという土地がある。 三十年ほど前までは水田の中に祠が建っていたらしい。それを移して、そこに店を開いた人がいた。しかし商売は上手くいかず、いくばくもなくして店は無くなった。 跡地に今度は二階建てのレストランが建った。幹線道路…
Mさんがアパートに1人暮らししていた時のこと。 ある夜いつものように寝ていると、ふと目が覚めた。その部屋は2階の角部屋で、一方の窓からは隣に建っている家のトタン屋根が目の前に見える。そのトタン屋根がパラパラ音を立てている。 ああ、雨が降って…
Iさんがひとりで車に乗って千葉県の国道を走っていたときのことである。 コンコン。 後部ガラスを何かが叩くような音がした。何かが風で飛んできてぶつかったのだろうか。そう考えた。 コンコン。 数分後また音がした。さっきと同じような音である。今日は…
私の家の庭には大きな木蓮があって、毎年春に白い花を沢山咲かせる。ある年の一月、祖父が亡くなった。その年の春には、木蓮の花はまったく咲かなかった。 それを見て父がぽつりと言った。「人死にのあった家では花が咲かないって言うからなぁ……」翌年からは…
Sさんという男性は3年間交際した恋人に遂に結婚を申し込んだ。 恋人自身は結婚に乗り気だったが、しかし承諾するには両親に伺いを立てねばいけないという。 そういうわけで2人で彼女の実家を泊りがけで訪れたときの話である。 娘の結婚の決定権を握るよう…