三/ コンコン

Iさんがひとりで車に乗って千葉県の国道を走っていたときのことである。
コンコン。
後部ガラスを何かが叩くような音がした。
何かが風で飛んできてぶつかったのだろうか。そう考えた。
コンコン。
数分後また音がした。
さっきと同じような音である。今日はそんなに風が強かったかな。そう思って前方を見回すが並木の枝は全くそよいでいない。
コンコン。
数分後、また同じ音である。
さすがにおかしいと思い始めた。バックミラーで後ろを見てみるが何も変わったところはない。
ゴンゴン。
今度は少し音が強くなった。
どうも、飛んできたものが当たっているような音ではない。
握りこぶしがノックしているようなイメージである。
しかしさっきからずっと車は遅いときでも40キロ以上で走っている。
何か小動物の仕業とも考えられない。
ゴンッゴンッ。
まただ。
確実にさっきより音が大きい。
にわかに怖くなって、スピードを上げた。もうバックミラーを覗く気にはならなくなった。
程なくして前を走っていた軽トラックに追いついたのでなんとなく安心だ、と思った。
追いついて以来音も聞こえなくなった。
そのまま二台は赤信号で停止した。
停止するや否や軽トラックの運転手は車から降りて、トラックの後部に回りこむと首を傾げながら後部ガラスのあたりを眺めた。
それを見てIさんは「ああ、前の車でもあれが聞こえていたのか」と、あらためてゾッとしたという。