四/ 雨音

Mさんがアパートに1人暮らししていた時のこと。
ある夜いつものように寝ていると、ふと目が覚めた。
その部屋は2階の角部屋で、一方の窓からは隣に建っている家のトタン屋根が目の前に見える。
そのトタン屋根がパラパラ音を立てている。
ああ、雨が降ってきたのか、と思った。
寝る前は晴れていたし、天気予報でも翌日一杯まで晴れだという話だったので、翌日外回りの用事があったMさんは「話が違うじゃないか」と少し慌てたという。
暗い部屋の中、トタン屋根に面したカーテンを僅かに持ち上げて窓越しに空を見上げた。
三日月が輝いているのが見えた。雲ひとつない。
あれ?晴れてるな。そう思って音を立てているトタン屋根に眼を移したMさんは、自分が寝ぼけているんじゃないかと思ったという。
目の前のトタン屋根の縁から、何十本という白い腕がにゅっと突き出ていて、それぞれがまるでピアノを弾くかのようにトタンを指で叩いている。
それがパラパラと、まるで雨音のように聞こえるのだ。
何度も瞬きをして眼を擦ってみたMさんは、やっぱりそれがはっきり見えることを確認して、急に怖くなった。
叫びだしそうになるのをこらえて布団を頭までかぶると、耳をふさいで目を固くつぶり、朝までそのまま過ごした。
そんなことがあったのはその一度だけだったという。