ガッタン

Fさんが中学生のとき、同じクラスにN君という男子がいた。
N君はじっとしているのが苦手な子で、授業中でも退屈するとすぐ隣の席の生徒に話しかけたり、勝手に立ち上がって教室を出ていったりということはしょっちゅうだった。貧乏ゆすりも酷く、座っている椅子がガッタン、ガッタンと音を立てるくらい体を揺らす癖があって、先生から何回注意されても止めなかった。
そんな調子で他の生徒から敬遠されるような子だったのだが、二年生の夏休みに体調を崩したという話で、N君は二学期の始業式を欠席した。
その後もN君はずっと休み続けた。担任教師からは特に説明がなかったが、噂によると入院したという話だった。
しかし実際のところN君がいると授業の邪魔になっていたところも少なくなかった。Fさんとしては噂が本当なら気の毒とは思うものの、正直なところ少しほっとした気持ちがあったという。
そして十月に入ったある日のことである。
ガッタン、ガッタン。
授業中、不意に教室の後ろの方から椅子が鳴る音が響いた。
いつものアレだ。でもNは……?
先生を含め、教室中の視線がそちらに集まる。
鳴っていたのは、N君の椅子だった。だがN君は相変わらず休んだままで、その席には誰もいない。
椅子だけがひとりでに揺れて、ガッタン、ガッタンと音を立てている。
他に揺れているものはないから地震などではない。
隣の席の男子が何を思ったか、半笑いを浮かべてN君の椅子を横から蹴っ飛ばしたが、どこ吹く風とばかりに椅子は一分ほど音を立てて動き続けた。
翌日以降はそういうことは起こらなかったが、N君は卒業までついに姿を見せなかったという。