トシヒロ

中学校の体育の授業中のこと。
グラウンドでサッカーをしている最中、生徒のひとりが校舎を指差した。
あそこ、誰かいる。
近くの生徒たちも視線を向けると、屋上に人の姿がある。屋上に突き出した塔屋の上に、制服姿の男子生徒の上半身が見えている。こちらをじっと見ているようだ。
あれ、トシヒロじゃん。うん、そうだな。
トシヒロというのは同じクラスの男子生徒だ。その日は学校を休んでいたのでグラウンドにはいない。
あいつあんなところで何してるんだろう、と眺めていたが、誰からともなくこんな言葉が漏れた。

 

なんかちょっとでかくね?

 

言われてみれば確かにトシヒロの姿が妙に大きい。屋上のすぐ下の教室の窓に比べると、上半身だけで窓二枚分以上はある。離れたグラウンドから顔がはっきりわかるのも、その大きさのせいだった。
明らかに普通の人間より大きい。下手な合成写真のようだ。
それに気づく頃にはグラウンドにいた生徒みんなが屋上を見上げていた。
サッカーの試合がすっかり止まってしまったのでお前達なにをよそ見してるんだ、と体育の先生が叱りつけたが、生徒が指差す方を見て口をぽかんと開けた。
なんだありゃ、誰かのイタズラか。お前達は試合続けててくれ。ちょっと見てくる。
先生はそう言うと校舎に向かって駆け出した。先生が通用口に姿を消すのとほとんど同時に、屋上のトシヒロはスッと見えなくなった。
下に引っ込んだというわけでもなく、ただ急に見えなくなったというような消え方だった。
数分して屋上に体育の先生の姿が現れたが、見回しても特におかしなものが見当たらなかったようだった。


翌日登校してきたトシヒロはいつも通りの大きさだった。
質問攻めにあったが本人は何も知らないようで、怪訝な顔をするばかりだった。昨日学校を休んだのは葬式のためで、学校に現れるような暇はなかったという。
その後しばらくの間、生徒たちはグラウンドにいるときに屋上のほうを気にするようになった。