元気なお菓子

Nさんが五歳の娘を連れて買い物に行った。
スーパーのお菓子売り場に近づくにつれて娘はそわそわし始める。スーパーに行ったときはひとつだけ娘の選んだお菓子を買ってあげることになっているからだ。
選んできていいよ、と言うと娘は小走りでお菓子の棚に向かう。
目移りする様子で棚の前をウロウロしていた娘だったが、ふと立ち止まるとNさんを呼んだ。
ママ、元気なお菓子がいる。
いや元気なお菓子ってなによ、と笑いながら近寄ると、娘の指差す先にはチョコレート菓子がある。
その箱がひとつ、小刻みに飛び跳ねるように動いている。えっ、何これ?
中に虫でも入っているのではないか。気味が悪い。
しかし娘は一層目を輝かせて、これにするという。娘が手に取ると、箱はおとなしくなった。
それを受け取ったNさんは全体を確かめてみたが、一度開けたような形跡や虫が入りそうな穴などはない。
耳元で軽く振ってみても、中で何かが動くような様子はない。しかしあれだけはっきり動いていたものを選ぶのも気が進まない。
普通お菓子は動かないでしょ、これは変だから他のにしよう、と提案しても娘はこれがいいと言い張る。
仕方無しにNさんはそれを買って帰った。
なにか危ない生き物が入っていたら困るので、帰宅してから庭で、Nさん自身がお菓子を開封することにした。
娘が期待の眼差しで見守る中、ミシン目に沿って箱を開ける。
――特に変わったことは何もなかった。
中に小動物などはおらず、個包装のお菓子が詰まっているだけ。全部取り出してみたものの、お菓子にも箱にも不審なところはない。店頭であんな動きをしていたのに、不審なところが見つからないのも逆に不審だ。
とりあえずお菓子を持って家に入ったNさんは、箱は捨てて皿の上にお菓子を載せた。
ご飯の前だから一つだけね、と言って娘に渡す。
娘のてのひらで、お菓子がカエルのように跳ねて床に落ちた。その途端に残りのお菓子もバササッと音を立てて、皿から元気に飛び出して散らばった。
ママ今の! すごいすごい!
娘は飛び跳ねて喜んでいるが、Nさんは呆然とするばかりだった。


それからそのお菓子はどうしたんですか? そう尋ねると、Nさんはニヤリと笑って答えた。
食べたよ。普通のお菓子だった。お腹も壊さなかったし。