新居

Fさんが結婚して二年後にお母さんが亡くなった。
お父さんはずっと以前に亡くなっており、Fはさんが就職して家を出てからはお母さんは一人で暮らしていた。
その古い家をどうしようかという話になったが、協議の結果一旦取り壊して新しく家を建て、Fさん夫婦が住むことになった。
その家はFさんの祖父が結婚した時に建てられたものというからだいぶ古い。二世代にわたって溜め込んだ様々なガラクタがあり、取り壊しのために片付けるのも容易ではなかった。
単に片付けに手間がかかるというだけではなく、妙な出来事も少なくなかった。納戸や押入れを開けた途端、二階や屋根裏で何かを引きずるような音がする。気がつくと廊下の床だけがびっしり結露している。捨てるものをまとめていると別室で扉がバタンバタンとひとりでに開閉する。などなど。
Fさんがかつてその家に住んでいた頃はそんなおかしなことが起こったことなどなかったのに、一体その後この家はどうしてしまったんだろう。Fさんは首を傾げた。
それでもなんとか半年ほどかけてFさん夫婦は片付けを済ませ、取り壊しと新居の建造は滞りなく進んだ。
引っ越しも済み、落ち着いたところで親戚を呼んで新居のお披露目ということになった。
新居一階のリビングで親戚たちと和やかに過ごしていたFさん夫婦だったが、ふと気がつくと天井の上を誰かが歩き回っている足音がする。
リビングの上はFさん夫婦の寝室だ。誰がそんなところを歩き回っているのかと見回してみると、親戚が連れてきた小学生の兄弟がいない。足音は彼らだろう。
兄弟の母親と一緒に二階に上がったFさんだったが、寝室には誰もいない。すると更に頭上からまた足音がギシギシと響いてくる。屋根に上がったのか?
そこでベランダに出て屋根を見上げると、確かにそこには子どもがいた。
しかし二人どころではない。小学生くらいの子が六人ほど、屋根の上を裸足で歩き回っていた。知らない子たちだ。
君たちどこの子? 危ないから降りてきなさい。
そう呼びかけると、子どもたちは次々に屋根の向こう側へと身を翻して見えなくなった。
反対側に回ってもどこにもいない。下りてくる気配もないまま、姿を消してしまった。
一体あの子たちはどこから屋根に上がったのだろう。家の周りに高い木はないし、隣の家の屋根は飛び移れるほど近くない。家の二階からベランダに出れば屋根には上がれるだろうが、あんなに大勢の子どもが家に入ってくれば気がつく。
いなくなっていた親戚の小学生は近所のコンビニに行っていたようで、少ししてから帰ってきたという。