叔父の家

Yさんは亡くなった叔父が住んでいた家を見に行くことにした。
母方の叔父はその前年、五十代の若さながらガンで亡くなった。母方の祖父母も既に亡くなっていたため、未婚の叔父の遺した一切は唯一の血縁者であるYさんの母が相続することになった。
その頃Yさんは四年付き合った彼女との結婚を考えており、住んでいたアパートからの引っ越しを計画していた。いっそのこと家を建てようかとも考えていたが、それなら叔父の家に住んだらどうかと母からの提案があった。築十五年ほどの新しくはない家だが、そう傷んでいるわけでもないし、内装をリフォームすれば新築するより安上がりではないかという。
この提案はYさんとしてもありがたかったので、早速その家を見に行ったのだった。親戚ではあったが、Yさんはその家をそれまで一度も訪ねたことがなかった。
亡き叔父の家は幹線道路から脇道に入ったところにある一軒家だった。小川や畑に囲まれた静かな立地なところがYさんの気に入った。その時点でもう半分以上はそこに引っ越してくるつもりになりながら、母から借りてきた家の鍵を取り出して玄関を開けた。
中は思っていたよりずっと片付いていた。というより物が少ない。母が片付けたのだろうか。
一階は玄関から正面に廊下がまっすぐ続いていてその左右に居間や台所、バストイレや納戸があり、廊下の突き当りに二階への階段がある。
Yさんが居間を覗いてから次にその向かい側の台所を見ようとしたその時。


ダンッ! ダンッ! ダンッ!


突然、階段を強く踏みしめて上がっていく音がした。
誰が!?
玄関の鍵を開けて家に入ったのはYさんひとりのはずで、それ以降も玄関から誰かが入ってきた気配はない。
まるで階段の中程から急に誰かが現れたかのようだった。
誰だ! 誰かいるのか!
階段の上に向かって怒鳴ったが、返事も足音もない。恐る恐る階段の上を覗き込んでみたが、誰かの姿もない。
ゆっくりと周囲を確かめながら階段を上っていったYさんだったが、二階でも結局誰かの姿を見つけることはできなかった。
ただ、叔父の元寝室と思われるベッドの置かれた部屋で奇妙なものを見つけた。
短くちぎった草が床にいくつも散らばっているのだ。ついさっき近所でちぎって今ばらまいたばかりというような、青々とした雑草がベッドの周りの床に無造作に散乱している。
誰がこんなことをしたのだろうか。さっきの足音の主だろうか。
それならその本人はどこに消えたというのだろう。窓は全て閉まっているから、Yさんが上がってきた階段以外に二階からの出口はない。だがYさんは階段から誰かが降りていくところを見ていないし、そう広くない二階のことで、見逃したはずもなかった。
何かが家の中にいるのだろうか。主のいなくなったこの家に。
……こんな家では新婚生活どころではない。
Yさんはすぐに階段を下りて急いで外に出た。玄関に施錠すると、後ろを振り返らずにその家を離れた。
家の中に何かが見えてしまったら嫌だったからだ。


母に鍵を返すときに、こう伝えたという。
あの家、早く壊すか売るかしたほうがいいよ。