木箱

Uさんが就職に伴い上京して一人暮らしをしていたときの話。
日曜日の昼下がり、アパートの二階のUさんの部屋を誰かがノックした。
出てみると宅配便で、届いた荷物は一抱えもある木箱だった。周りを荒縄で十字に縛ってある。
そんなものを送られる心当たりはなかったが、確かに宛名はUさんなので、一応受け取りの判を押した。
部屋に運び込んでみると、見た目の割には妙に軽い。ほとんど箱だけの重さしかないように思える。
受け取った時にはよく見ていなかったが、送り主の名前は全く知らない人で、Uさんは受け取った事を少し後悔した。
――何か犯罪がらみだったらどうしよう。開ける前に警察にでも相談したほうがいいだろうか。
そう思いながら箱をよく見ると、側面に封筒が一枚、ガムテープで念入りに貼り付けられている。
上から触ってみるとどうやら中に紙が入っているようなので、手紙かと考えたUさんはそれを剥がして取り出してみることにした。
四辺をぴったりガムテープで貼ってあるのでカッターでそれを切ってみると、封筒の中身は三枚ほどの便箋だった。
しかし表にも裏にも何も書かれておらず、結局何もわからない。なぜ白紙をそんな風に厳重に貼り付けてあったのかも謎である。
もう箱の外には荷物についての手がかりはなさそうなので、やはりこれは開ける前に誰かに相談したほうがいいだろうか、とUさんが迷っていると、近所で消防車のサイレンが鳴り響いた。消防車はだいぶ近くで停まったようだった。
火事かな?と立ち上がって窓際に寄ろうとしたところで、またドアがノックされた。
「すみません!誰かいますか!?」
今度はだいぶ激しく叩きながら声をかけてくる。
何事かと思ってドアを開けると、そこには耐火服に身を包んだ消防士が二人ほど立っている。
「この部屋から煙が上がっていたという通報があったのですが……」
消防士はそんなことを言うが、Uさんには全く心当たりがない。
一応部屋の中に通して確認してもらったところ、当然ながら火事の痕跡などない。
同じアパートの他の部屋からも煙など上がっていない。
消防はいたずらか何かと結論づけてすぐに帰っていった。
何だったんだ一体、とUさんが一息ついてまた荷物のことを思いだしたところ、なぜか部屋のどこにもあの木箱がない。
剥がして中身を見たあの封筒も一緒に消えている。
封筒を箱から外すのに使ったカッターナイフは使ったまま机の上に置いてあるのに、先程届いたものがひと通り無くなっていた。
まさかあの消防士が持っていったのか?とも疑ったが、部屋の中に通した時には彼らから目を離さなかったし、一抱えもある箱を持ち出せばすぐに気がついたはずだった。
消防士に気を取られているうちに他の誰かが窓から持ちだしたかとも考えたが、窓はずっと施錠してあって誰かが出入りできたはずはない。
箱を受け取ってからすぐ火事騒ぎがあったのは偶然とも思い難いが、どう関係があるのかは考えてもわからなかった。


結局箱の中身が何だったのか、そして送り主が何者だったのか、全くわからないままだという。