Nさんが大学生の頃、友人からこんな相談をされた。
最近さあ、星がついてくるんだよね。どうしたらいいと思う?
返事に困ってしまった。星がついてくるとはどういうことだ。
友人の詳しい話はこうだった。
夕方に一人で帰宅する途中、どうも背後から足音がする。気のせいかとも思ったが、どうも誰かが後をついてくるように思えてならない。
角を曲がるときに後方をちらりと確認すると、人の姿は特にない。代わりに、道の上に星が浮いていたという。
人の背丈くらいの高さのところに光る球が浮いている。それを見た友人はああ星か、と思ったのだという。
星? 人魂とかUFOとかではなく?
そう、星だと思ったんだよね。理由もなく。それでそれが一回だけじゃなくてもう三回は出てきてさ。なんか私のこと好きなのかなって。
好き? 星が?
そう。なんとなくだけど私が好きだからついてくるみたいで。
Nさんは混乱した。なぜその光る球が星だと思ったのか、その星からどうして好意を感じたのか、さっぱりわからない。
ねえどうしたらいいと思う? もう一度友人がそう訊いたが、Nさんには出鱈目な作り話にしか思えず、まともに相談に乗る気にはなれなかった。
ストーカーなら警察に通報すれば? いいかげんにそう返事したが、友人は首を横に振る。
星だよ? 警察がまともに相手してくれるわけないじゃん。
それはそうだ。そんな話、Nさんもまともに相手したくはない。
ついてくるだけで実害がないなら、放っておけば? そう言うと、友人は不安そうな顔になった。
放っておいて襲われたら怖いじゃない。ねえNちゃんも一回見てよ。変な星なんだって。友達じゃない。助けてよ。
そう押し切られてNさんは何度か彼女が帰宅するときに同行したが、一度も光る球も、不審な人物も出てこなかった。
ただ帰宅途中の友人は嘘や演技とは思えないくらい挙動不審で、しきりに後ろを気にしていた。
結局その後友人は大学を休みがちになり、ついに休学してしまってNさんが卒業するまで会うことはなかった。
次に会ったのは大学卒業から五年ほど後、Nさんが仕事で東京を訪れた時のことだった。
東京駅の通路で向こうから来る人の顔になんだか見覚えがあってよく見ると、あの友人だった。
声をかけると相手もすぐNさんのことに気付いたようだった。
立ち話して近況を伝えあったところ、彼女は地元の静岡に帰って就職し、結婚もしたが、もう離婚したという。
Nさんは乗る予定のバスの時刻が迫っていたこともあって、それ以上大した話もできずに別れた。
背中を向けて数歩進んで、やっぱり今の連絡先を聞いておこうと思って振り返ったとき、Nさんは目を疑った。
友人の肩の上に光る球が載っている。ぼんやりして輪郭がはっきりしないが、光る球だ。
あれは、あれが以前言っていたあの。
星なの?
Nさんが呆然としている数秒のうちに、友人は雑踏に紛れて見えなくなってしまったという。