Fさんが小学生の頃のこと、お母さんに連れられてお母さんの友人の家を訪ねた。
そこは大きなお寺で、本堂に隣接する住居に通された。
お菓子をご馳走になったが、お母さんたちの話が弾んでいるのでFさんは退屈になってきた。
トイレに行きたくなったので一人で出て行き、用を足して戻ろうとすると玄関の方で誰かがこちらを見ている。
Fさんと同じくらいの歳に見える男の子で、にこにこして手招きしてくるので、そちらに行ってみた。
ここの家の子? と訊くと笑って頷き「面白いもの見せてあげようか」と言う。
退屈していたFさんは彼の後について行き、玄関を出て本堂の裏に向かった。
そこには小さな祠があり、男の子はその古びた扉を大切そうに開けて、中を見るよう促す。
Fさんが覗き込むと、中は思ったよりずっと広くなっていて、なぜか外と同じくらい明るい。
そして中にもうひとつ立派な建物が見える。
本堂と同じような立派なお堂で、しかも全体が宝石か何かでできているのか、きれいな緑色に輝いている。
頭を動かして見る角度を変えると、光を反射して眩しくきらめいた。
祠の外を見ても、緑色のお堂なんてどこにもない。
もう一度覗き込んでも、やはり中に大きなお堂が見える。写真や映像ではない。本物にしか見えなかった。
首がぎりぎり入るかどうかという小さな扉だから、そこから中へ入ることはできなさそうだが、まるで扉の向こうに別の世界が広がっているかのようだ。
どういうこと? と男の子に訊ねたものの、彼は笑って答えず、代わりに「そろそろお母さんが待ってるよ」などと言う。
ごまかされているように思ったが、確かにそれはその通りなので、一旦客間に戻ることにした。
客間には男の子は着いてこなかった。
トイレに行ったにしては時間が経っていたので、お母さんはどこまで行っていたかFさんに問いただした。
あったことを正直に話すと、お母さんの友人は首をひねる。うちに男の子なんていないんだけどなあ。
本当のことを言っているのに疑われるのは嫌なので、Fさんはお母さんと友人を本堂の裏へと連れていった。
先ほど男の子について行ったところには、やはり小さな祠がある。ところが様子は先程と少し異なっていた。
男の子が開いて中を見せてくれた祠の扉がなくなっていて、代わりに祠の中に石の古いお地蔵さんが立っている。
中を覗き込んでも古い祠の内壁が見えるだけだ。
緑色のお堂なんてないじゃない、とお母さんは呆れていたが、友人は微笑んで言った。
それはきっとお地蔵様が見せてくれたのよ。いいものを見られたじゃない。
果たしてその言葉が事実だったかどうかはわからないが、Fさんは後にお坊さんと結婚することになった。
だからFさんはこの出来事を仏様との縁だと思っているという。