畳敷きの部屋

大学一年生のUさんが夏休みに帰省したときのこと。
高校生のときまで使っていた自室に入ったところ、なんだかいやに違和感がある。
家具の配置が変わったわけではない。母に聞いても部屋の中には指一本触れていないという。
しかし記憶にあるよりなんだか随分と暗く感じられる。大学の近くで暮らしているアパートの部屋のほうが明るいから、実家の部屋が暗く感じられるのだろうか。
とりあえず窓を開けて換気しつつ、掃除機をかけてはみたが、やはりどこか沈んだような雰囲気が拭えない。
気のせいだと思うことにしたものの、その夜ベッドに入った後でこんなことがあった。
実家までの移動で疲れていたので眠くはあったが、どういうわけか寝付けない。
まぶたを閉じたまま何度めかの寝返りを打って、それでもまだ眠れないので仕方なく一度台所に行って何か飲んでくることにした。
それで上体を起こしたところで奇妙なことに気付いた。
ベッドは西側の壁にぴったりつけて置かれている。ところが今はその壁がなくなっていて、その向こうに畳敷きの広い部屋が続いているのだ。
腕を伸ばすとやはり壁には触れない。ひんやりとした空気を掻くばかりだ。
しかしUさんの実家の部屋は二階にあり、ベッド脇の壁の向こうは外の空中だ。部屋などあるはずがない。
実は既に眠り込んでいて、夢を見ているのだろう。そう思った。
夢の中ならちょっと探検してみたいな。そんな考えが浮かんだUさんは、ベッドからあるはずのないほうの床へと足を下ろした。
畳に触れた足の裏にひんやりとした感触があった。
その途端に少し頭が冷えた。
いや、やっぱりおかしいでしょ。このまま奥へと進むのはまずいかもしれない。畳の向こうへと進んでいって、戻ってこれなくなったらどうする。
Uさんはすぐに畳から足を上げてベッドの反対側の自分の部屋のほうへと下りた。
そのまま部屋を出て階下のキッチンに行き、水をコップ一杯飲んでからまた部屋へ戻った。
その時にはもうベッドの向こうは壁に戻っていたという。