乗るもの

Uさんが中学校の時の話。
二年生は毎年、宿泊学習で長野の施設に行くのが当時の通例だった。
一泊二日で、一日目の夜にはキャンプファイヤーを囲んでのレクリエーション後に入浴、就寝という行程だった。
その晩のことである。
十時に消灯し、Uさんもその日の疲れからすぐに寝付いてしばらくした頃。
Uさんは、ふと寝苦しさに目を覚ました。
意識がだんだんとはっきりしてきたが、やはりどうも胸の辺りが重苦しい。
なぜだろうと視線を周囲に巡らせると、すぐ近くに誰か立っている。
暗い中なのでそれが誰なのかはよく見えなかったが、ジャージ姿だったので同室の誰かがトイレにでも起きたのかと思った。
しかし、その誰かは微動だにせず、ずっとその場に突っ立っている。
何なんだ、と思ってよく見てみると、その誰かの足元に誰かが寝ているのが見えた。
立っている誰かは、寝ているクラスメイトの胴体の上に両足で乗っているのである。
乗られている方はさぞ重いのではないかと思うのだが、それでも静かに眠っているようだった。
これ何やってるの?苦しくないの?
心配になったUさんは上に乗るのを止めさせようとしたが、目が覚めたばかりだからか、声がうまく出ない。
上半身を起こそうとしたが、なかなか力が入らない。
何だかおかしいな、と思いながら数分間手足に力を込めていると、やがて思うように体を動かせるようになってきた。
それでやっと起き上がると、周りに寝ていた数人も一斉に体を起こした。
中には荒く息をついている者もいる。
何事だ、とUさんが面食らっていると「今、乗っかってたの誰?」
起きたうちの一人がそう呟いた。
改めて見れば立っていた人影がどこにもいない。
どこにいるんだろう、と思いながらその誰かに乗られていた生徒を見てみると、静かに眠りながら鼻血を流していた。
慌てて本人を起こし、担任の先生にも報告して汚れた枕カバーを外したりと、部屋はしばし騒然となった。
しかし、気になるのは上に立っていた人影である。
起き上がった数人はいずれも立っていた人影の至近距離だったから、全員の目を盗んで立ち去ることは不可能だった。
また、後になってわかったことだが、Uさんを含む数人が一斉に起き上がったのも偶然ではなかった。
その全員が、息苦しさを感じて目を覚まし、立っている人物を見て起き上がったというのである。
しかし結局、立っていたのが誰だったのかはよくわからなかった。
鼻血を出したクラスメイトも他に変わったところはなく、翌日に宿泊学習は滞りなく終わったという。