2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

さいごに これがあたしたちのリアル きみにはわかっているはず

そして、そう考えると、十七歳の少年に彼女ができるという状況は、実は、いわゆる「ロボット・アニメ」における状況に近いのではないか、と思うのです。少年が、巨大ロボットという圧倒的な存在の操縦者となることによって始まる、歓喜と戦慄の日々。少年が…

九十四/ ループ

趣味で絵を描いているHさんは、その日街角でスケッチをしていた。 もう二時間ほど同じ場所に陣取っていたが、ふと気付いたことがあった。何回も同じ人が目の前を通っていくのである。その人は自転車に乗った中年女性で、見たところ特に変わった所のないおば…

九十三/ 瞬間、お地蔵様

Yさんが車にはねられた。十メートル以上跳ね飛ばされて、そのまま勢いよくアスファルトの上に叩きつけられたという。すぐに病院に運ばれたが、随分勢いよく跳ね飛ばされたわりには目立った外傷が不思議なほどない。気を失っていたもののすぐに意識を取り戻…

九十二/ 走る馬

Sさんの経営している画廊に、一枚の馬の油彩画があった。フランスの無名画家の作ながら、草原を走る一頭の馬が躍動感に満ちた勢いある画風で描かれていて、Sさん自身もなかなか気に入っていた一枚だった。 ただ、一つだけおかしなところもあった。カンバス…

九十一/ 銀杏と雀

Tさんが連休を利用して久しぶりに実家に帰省した。仕事が終わってから向かったので、付いた時にはもう深夜で、到着早々部屋に下がって休んだ。 翌朝は小鳥の声で目を覚ました。起き上がってカーテンを開けると、二階にあるTさんの部屋の窓からすぐ目の前に…

頭痛とわたくし

昔から頭痛持ちで、月に一度くらいは頭痛に悩まされる日があります。脈拍とともにズキズキ痛むタイプの頭痛が多いので、おそらく頭の血管が炎症を起こすのだろうと思うのですが、原因についてはよくわかりません。大抵の場合一晩寝れば痛みが治まるので頭痛…

九十/ 気配と場所

Kさんが勤める会社が大幅に模様替えした。それまで入り口間際にあった席が壁際に移ったので、人の出入りに気が散らされることも少なくなるかと喜んだKさんだったが、そうも上手くはいかなかった。 机に向かって仕事をしていると、時折目の前にふっと人影が…

八十九/ 隣のお姉さん

Aさんが大学を卒業して間もない頃のこと。家に若い女性が訪ねてきた。よく見れば、隣の家の娘さんである。Aさんより五つ年上で、幼い頃からよく面倒を見てもらっていてまるで姉妹のように仲がよく、またAさんの憧れの女性でもあった。Aさんが大学に入っ…

八十八/ 川沿いのビル

Uさんの住んでいる町に、数年前まである廃ビルが建っていた。もと観光ホテルだった建物で、川沿いに建っており眺めもよく、開業当時はそれなりに繁盛していたというが、それももう三十年ほど以前の話らしく、Uさん自身が知っているのは既に朽ち果てつつあ…

八十七/ プール掃除

Tさんは高校生の時、水泳部に所属していた。初夏になると、冬の間使われていなかった学校のプールの掃除をするのが水泳部の恒例行事だった。 Tさんが三年生時のプール掃除のときのことである。よく晴れた暑い日の放課後だった。プールは前年の夏以来水を抜…