跳ねもの

Uさんが親戚の法事のために東京から山梨へ移動中、午前八時頃のこと。
妻と二人、車で山道を走っていると前方の上空になにか浮いている。
鳥かと思ったが近づくにつれてシルエットがはっきりしてきて、どうも鳥らしくない。どんどん大きく見えてくる。どうやらこちらに向かって斜めに落ちてきているようだ。
地表に落ちる直前にはっきり見えたそれは、手足を大の字に伸ばして髪を振り乱した人の姿だった。
驚いてブレーキを踏んだが、次の瞬間それは落ちてきた勢いそのままに道路脇でぽおんと跳ね上がり、瞬く間に後方に消えていった。
何だ今の、人形か? でもあんなに跳ねるわけないな……何だあれ。
Uさんがそう呟くと妻が呆然とした顔で言った。
天狗じゃないの?


それ以来Uさんと妻はこの道を天狗の道と呼んでいて、その後も親戚の家に行くときに何度か通っている。だが変なものを見たのはこの一度きりだという。