ドシン

Uさんがアパートで独り暮らしをしていた頃の話。


五月二十日の夜だったという。
疲れて帰ってきたUさんは食事もせずにシャワーだけ浴びるとすぐにベッドに入った。
しかし、なにやら神経が冴えてなかなか眠れない。
次の日も早めの出勤だったので、何とか眠ってしまおうと目を瞑ってじっとしていた。
ドシン!!
突然、大きいものが落ちたか倒れたかしたような音が部屋に鳴り響いた。
驚いて跳ね起きたUさんは灯りを点けて室内の様子を見た。
ところが家具はいつもの配置のままで、灯りを消した時と特に変わったところもない。
隣の部屋から聞こえてきたにしてははっきり聞こえたし、室外から聞こえてきた音にしては、随分近くから聞こえた気がする。
念のため窓やドアから外の様子を窺ってみたものの、シンと静まりかえって変わったところはないし、近所で工事なども行われてはいない。
狐につままれたような気がしたものの、再び灯りを消して布団にもぐりこんだ。
そうしてまたしばらく経ったころ。
ドシン!!
また先程と同様の音が響いた。
今度は折角うとうとしかけていた所を起こされてしまったので、Uさんはかなり不機嫌になって灯りを点けた。
やはり部屋の中は特に変わっていない。
とすれば、やはり音は外から響いてきているのだろうか。
そう思ったUさんは、音の元を突き止めようと、サンダルを履いて外に出た。
ドアの前で辺りを見回してみたが、変わったところが特に見つからないのは先程と同様である。
隣の部屋が音の元凶だろうか?
しかし、そうだとしてもどちらの隣なのかがわからない。音は隣の部屋というよりは自分の部屋の中で発生したように聞こえたのだ。
と、そこで少し違和感があった。
あれだけの大きな音だから、自分の部屋以外にも響いていたはずだ。しかし、こうして外に出て様子を窺っているのは自分一人きり。みんな寝ているのだろうか?
少しアパートの周りをうろついてみたが、そもそもアパートで灯りがついているのも自分の部屋だけだった。
音の原因はさっぱりわからないものの、もういい加減寝なくては明日に響くと思い、念のため耳栓をして眠りについた。
翌朝は耳栓のせいで目覚ましの音が聞こえにくく、危うく遅刻しかけたが何とか間に合った。
そうして日々の忙しさの中でそんな体験のことなどすっかり忘れていたUさんだったが、それから一週間ほど経ったある日のことである。
実家の母親から電話が掛かってきた。
母親の親戚が一人、自殺したという。
亡くなったのは五月二十日の晩、ちょうどUさんがあの大きな音に叩き起こされた夜のことだったという。
Uさんもその日付を聞いて、すぐにその晩のことを思い出した。
そうするとあの音は、その人の死と関係があったのだろうか。
しかし疑問もあった。
Uさんにとって、その親戚は今までに一度か二度くらいしか会った事のない遠縁の人なのだ。
化けて出てくるにしてもなぜ、母ではなく自分の所なのだろうか。
やはりあの音と、自殺の件は全く関係がないのだろうか?
どうにも釈然としないUさんは、最後になんとなく、その人の死因を母に尋ねた。
少し口ごもった母から「飛び下り」との答えを聞いて、Uさんは確信を持った。


聞こえたのは、大きいものが落ちたような音だったのだ。