おはなしあそび

Uさんには幼い頃、姉と一緒にする遊びがあった。Nさんが考えたキャラクターを使って姉がストーリーを作り、語って聞かせるというものだった。
絵本に出てきたキャラクターや近所の人をモデルにしてUさんが人物設定を話すと、姉がそのキャラクターが出てくる物語を即興で作ってくれた。
確か小学一年生のときだったという。Uさんが家で姉と二人で留守番をしているところでいつものようにこの遊びを始めた。
この日は近所に住んでいる知り合いのおばあさんをモデルに魔女のおばあさんを創作して、姉に物語を作ってもらった。
そのことははっきり覚えているという。なぜなら姉が物語を語っている最中、そのおばあさん自身が訪ねてきたからだ。
玄関のチャイムが鳴ったので姉と二人で出てみると、おばあさんが立っていた。お母さんは今出かけているというとそれなら大丈夫と言っておばあさんは立ち去った。
ちょうどおばあさんをモデルにした物語を語っているところだったから、Uさんと姉は顔を見合わせて笑ってしまった。
それでまた続きを語っていたところで、またチャイムが鳴った。出てみるとさっきのおばあさんだった。
お母さんはまだ帰ってきてないです、と姉が言うとおばあさんはまた微笑んで去っていった。
こんなすぐにまた来るなんて、急ぎの用事があるのかな。そう二人で話していると、またチャイムが鳴った。
出てみると今度も同じおばあさんがいた。急な用事があるなら家に入って待ってますかと姉が申し出たが、おばあさんはやはりまた去っていった。
数分してまたチャイム。
またおばあさんかな。
足音を立てずに二階に上がると、窓からそっと外を覗いてみた。眼下の玄関前には、やはりあのおばあさんが立っている。
チャイムがまた鳴った。
なんだかおかしい。姉と二人で顔を見合わせた。
おばあさんは立っているだけなのにチャイムが立て続けに鳴っている。誰がボタンを押しているのだろう。
そのまま家の中で息を潜めていると、少ししてお母さんが帰宅した。玄関の前には誰もいなかったという。
近所のおばあさんが訪ねてきたことを話すと、お母さんは怪訝な表情を浮かべた。本当にあのおばあさんが来たの?
お母さんの話では、おばあさんは体調を崩して入院中だという。後でお母さんが確かめたところ、実際その日もおばあさんは病院のベッドの上にいたということだった。

 

それからも何度かUさんは姉と物語を作る遊びを繰り返したが、周囲の人物をモデルにすることはしなくなったという。