白い棒

大学生のTさんが友人たちと一緒に九十九里へ遊びに行った帰り道での話。
運転免許を持っているのがTさんだけだったので、レンタカーの運転手は行き帰りともTさんが担当した。
帰る頃にはもう夜九時を回っていて、友人たちは海で遊び疲れたせいで眠り込んでしまった。
川沿いの長い堤防に沿った真っ直ぐな道を辿っている時のことである。
音量を絞ったラジオを聞きながら無言で車を走らせていると、前方の堤防の上に白い棒が立っているのが見えた。
しかし奇妙なことに、暗い中でなぜかそれだけがライトアップされたように白く浮かび上がって見える。
――何だあれ?
車が近づいてゆくにつれ、白い棒もはっきり見えてくる。
おそらく人の背丈くらいの大きさのまっすぐな白い棒が堤防の土手の上に立っている。
なぜ暗い中に浮かび上がって見えるのかはよくわからないが、気にするほどのことでもないのでTさんはそのまま車を走らせた。
すると、すぐに違和感を覚えた。
もうすぐ棒のところを通り過ぎると思ってから、一向に棒との距離が縮まらない。
――あの棒、動いてるのか!?
どうやら、白い棒が車と同じ速さで土手の上を移動しているらしい。
ただの棒ではないのか?一体どういうことなんだ?
「ついてきてるな……」
突如、助手席の友人が呟いた。
眠っていると思っていたら、いつの間にか起きていたらしい。
何だろうな、あの棒。Tさんがそう言うと、友人は何言ってんだ、と言う。
「お前にはあれが棒に見えるのか?」
友人はそう言うが、Tさんにはどう見ても白い棒にしか見えない。
お前には何に見えてるんだよ、とTさんが尋ねると、それは後で教えてやる、と言う。
そうこうしているうちに土手から道が逸れ、白い棒も見えなくなった。


それから二十分くらい走って立ち寄ったコンビニの駐車場で、友人はTさんに言った。
「俺には、あれは白い服を着た女に見えてたんだよ。こっちを見て笑いながら滑るように移動してた」