雛人形

二十年近く前のこと。
Uさんが通っていた中学校で、一斉に校内の鏡が外された。
それにはこういう経緯があったのだという。


ある朝、野球部の練習で早く来た生徒が昇降口を通りかかった時に、奇妙なものに気がついた。
昇降口の壁には、一枚の鏡がかかっていた。そこに、何やら真っ赤なものが映って見えている。
普段はその場所に赤いものなど置いてないはずなので、少し気になったその生徒は近くに寄って鏡を覗きこんでみた。
真っ赤に見えたそれは五段ほどの立派な雛飾りで、昇降口の下足箱の向こう側に置いてあるように見える。
なんで学校にそんなものが、とその辺りを振り向いてみたものの、なぜか雛人形などどこにもない。
もう一度鏡を覗いてみると、そこには確かに雛人形が映っている。
不可解さに首を捻っているうちに、あとから来た他の野球部員も鏡に映る雛飾りを見て、騒ぎ出した。
騒ぎを聞きつけた野球部の顧問の先生が生徒たちを立ち去らせて、すぐにその鏡を外してしまった。


しかしそれだけでは終わらなかった。
それから、校内にある他の鏡にも、次々に同様の雛人形が映りこむようになった。
校舎内のどこにも雛人形など置いてないのに、鏡の中だけにははっきりと見えている。
生徒だったUさんも休み時間にトイレの鏡でその雛人形を見た一人だという。
あまりにもはっきりと見えるため、不思議で仕方がなかったが、トイレを背景に雛人形がある様子はひどく違和感があったという。
校内ほとんどの鏡で同様のことが起きたため、その週のうちに鏡は全て外されてしまったらしい。