窓の風

十二月のある日、Jさんの自宅アパートの隣家が火事で全焼し、住んでいた高齢の夫婦が亡くなった。
火事のときにはJさんは仕事中で自宅におらず、帰宅して初めて隣が焼けたことを知った。もうその時には鎮火済で、Jさんの住むアパートは外壁に煤が付いた程度で延焼は免れていたが、燃え移っても不思議はないくらいの距離だったので、知らない間にうちまで焼けていたらと思うと鳥肌が立った。
亡くなった夫婦とは偶に道端で挨拶をする程度の顔見知りでしかなかったが、翌週行われた葬儀にはJさんも参列した。
それから一年後、休日にJさんがアパート二階の自室で過ごしていると、突如カーテンがふわりと膨らんだ。窓から風が部屋に吹き込んでくる。
なぜか風が真夏のように熱い。そしてどういうわけか、焦げ臭い。
昨年のことがJさんの頭をよぎった。
弾かれたように立ち上がり、窓に駆け寄って外を見たが、特に煙や炎は見えない。眼下には火事跡が住宅地の隙間のようにぽっかり空いている。
そこで気がついた。窓が開いていないのだ。風が吹き込むはずがない。
窓を開けてみたが、外の風は冷たい。熱くも焦げ臭くもなかった。
Jさんは火事跡に向かって手を合わせてから窓を閉めた。部屋の焦げ臭さはその日いっぱい取れなかったという。