人肉の五十三日目


稲の写真を撮っているすぐ近所では石榴の花が満開で、大層鮮やかに咲き誇っている。
石榴の実は人肉の味がするという俗説があるが、花は花で妙に色が艶かしい。蕾の表面もぬらりと艶があって、まるで粘膜のように見える。
試みに指先で表面をなぞると恥じらうように身をくねらせたが、そこに浮かぶのは拒絶の色ではなく、怯えの中に明らかな期待の色が入り混じっていた。その反応は正直意外だったが、しかし好都合でもある。
――期待には応えないとな。
薄く嗤いながら、もう一度花弁に指を這わせる。
焦らすようにゆっくりと、今度は二本。
指先に熱いざわつきが伝わる。
怯えているのか。
それとも悦んでいるのか。
花弁は既に湿り気を含んでいた。
――もう、準備できてるじゃないか。
殊更に呟くが、応えはない。潤んだ瞳がこちらの指を凝視している。こちらも敢えて素知らぬ振りで、指を巡らす。
外側から始めて、緩慢に内側へと進める。いたぶるように。
速い息遣いが耳につく。興奮しているのは誰なのか。
花弁は貪欲に指を包み込んで離さない。否、既に手首までが呑みこまれていた。
内部は細かく蠕動して、更に奥のほうへと導こうとしている。小刻みな締付けも堪らなく愛おしい。抗うことなど出来よう筈もなかった。
そうして肩まで呑まれた時に、霞のかかった頭でぼんやりと考えた。
――来年も、好い色で咲くだろうか。


石榴の樹がぞわりと笑った。