Yさんは家の近くの砂浜で奇妙な物を見つけた。
円錐形を逆さまにしたような形に砂が固まって立っている。
前の晩は風が強くて波が荒れていた。そんな翌朝は色んなものが浜に打ち寄せられていることが多い。
その朝も何か面白そうなものがないだろうかと、Yさんは散歩がてら浜を見て回っていた。
すると打ち寄せられたゴミに交じって見つけたのが、見たことのない砂の固まりだった。
三十センチくらいの高さに砂が積み上がっている。しかもどういうわけか、下の方ほど細くなっている。
支えになるようなものも周りにない。
砂がそんな形に固まっているのをYさんは見たことがなかった。
こんな不安定な形だから、風や波が強いうちはすぐに崩れてしまうはずだ。それらが弱くなった朝方になってからできたものだろうとYさんは考えたものの、一体どういうわけでこんなものができあがったのか見当がつかない。
周囲にはYさん以外の足跡がないから誰かが早朝にやってきて作ったというのもなさそうだった。
しかし自然にできたものとはとても考えられないような整った形をしている。
触れるとその途端に崩れてしまいそうで、Yさんは息を詰めながら顔を近づけてそれをよく観察してみた。
実際、誰かが素手で作ったというわけではなさそうで、表面に指の跡などはなく、滑らかで均整の取れた円錐形をしている。どうやったらこんな風に砂を固めて立てることができるのだろう。
Yさんはそれを崩れてしまう前にスマートフォンのカメラで撮っておこうと考えた。
ポケットからスマートフォンを取り出し、カメラアプリを起動させ、レンズを向けたが画面の中に砂の円錐が見えない。
画面から砂地に視線を戻すと、やはりあの円錐がなくなっている。目を離した数秒で崩れてしまったのかと思ったが、崩れた跡が見当たらない。
崩れたのならば砂が多少なりとも盛り上がっているはずだが、円錐があった場所は何事もなかったかのように砂が平らになっている。
周囲を見回してもあの円錐は見当たらない。
まるで初めからそんなものは存在しなかったかのようだった。