アロエの鉢

Jさんは自宅のベランダに鉢植えを並べている。
もともとJさんは園芸が好きなわけでもなかったのだが、何かのお祝いに貰ったり、引っ越す人から引き取ったり、いつのまにか増えていたのでまとめて置いている。
ある朝ふとベランダが視界に入ったところ、鉢植えがひとつ赤くなっていることに気がついてもう一度視線を向けた。赤い花や葉のつく鉢など持っていない。
よく見るとそれは花でも葉でもなかった。真っ赤な着物の女性がこちらに背を向けて鉢の上に立っている。
しかし小さい。鉢に植えてある小ぶりのアロエよりいくらか背が高い程度で、明らかに普通の人間のサイズではない。
人形だろうか。誰がそんなところに置いたのだろう。
近くでよく確認しようと窓に一歩踏み出すと、着物の女性はしゃがみ込むようにアロエの葉に紛れ込んでしまった。
動いた? 人形じゃないのか?
ベランダに出て鉢とその周囲をよく確かめてみたが、赤い姿はどこにもない。
ただ、ひとつ気になるものを見つけた。アロエの葉の一枚に、人のものにしか見えない小さな歯型がくっきりと付けられていたのだ。
それが関係あるかどうか、アロエはそれから半月もしないうちに萎れて枯れてしまったという。