覗く客

Yさんは大学生になってすぐに市内のコンビニエンスストアでアルバイトを始めた。
特にトラブルなどは起こらなかったが、ひとつだけ気になることがあったという。
夜勤をしていると、時々奇妙な行動をする客が来るのである。
特定の人というわけではなく、年齢も性別もバラバラの人たちが同じような行動を取るのだ。
それはこんな具合だった。
Yさんが気がつくと誰かが窓から店内を覗き込んでいる。
それも陳列棚を見ているのではなく、決まってレジカウンターを怪訝な表情で見つめている。
そのまま立ち去ってしまうこともあるが、時にはそれから店内に入ってくる。
店内に足を踏み入れると、やはりレジの辺りを見回しているが、やがて首を傾げて店を出て行く。
毎日ではないものの、そんな不審な振舞をする客が夜に限ってやって来るのである。
疑問に思ったYさんが声をかけてみたこともあったが、みな曖昧に言葉を濁すばかりだった。
結局その疑問が解けないうちに、三年生になって研究が忙しくなってきたのでYさんはそのアルバイトを辞めた。


それから半年ほど経ったある夜のことである。
友人の家に寄った帰り、偶々そのコンビニの前を通りかかった。
もう遅い時刻なので店長は帰っただろうが、誰か知り合いが夜勤に入っているかもしれない、と思ったYさんは少し顔を出すことにした。
が、近づいてみるとどうも店内の様子がおかしい。
明るい店内の様子は外からもよく見えるのだが、レジカウンターの上に誰かが立っているのだ。
それも一人ではなく、五、六人は見える。
黒いスーツ姿の男たちのようだったが、窓側に背を向けているので顔はわからない。
強盗だとしても様子がおかしいが、だからと言って他の何なのかはさっぱりわからなかった。
とにかく気になるので、できるだけ物音を立てないようにしながらゆっくりとドアを開けて店内に首を差し入れた。
――すると、ドアを開くまでは確かに見えていたカウンター上の男たちの姿が、どこにも見当たらない。
肩透かしを食らったような気持ちでそのまま店内に入ると、レジの奥から知り合いのアルバイトが出てきた。
Yさんがカウンターに乗っていた男たちについて聞いてみると、寝耳に水といった表情をしてそんな奴らは知らないという。
確かにいた、とYさんが言うので防犯カメラの録画も確認したものの、不審な人物の姿はどこにも映っていなかった。
納得出来ないままYさんが店を出た時、はっと気が付いた。


もしかしたら、あの奇妙な行動の客たちも同じ物を見たんじゃないだろうか?