砂輪

Fさんは三十歳を過ぎた頃からずっと調子が悪かった。
頻繁に頭痛が起きるし、いくら寝ても疲れが抜けない。具体的にどこかが痛くなくても常に体が重く感じる。
単に二十代の頃より体力が落ちたせいかとも思ったが、それにしても常にどこか調子が悪いのはおかしい。しかし病院で検査してもらっても目立った異常は見つからなかった。
すると職場の先輩からある神社を勧められた。先輩も以前困っていたときにその神社にお参りしてご利益があったのだという。
――あそこはなあ、すごいぞ。入ったときから雰囲気が違うのがわかる。
そんな先輩の言葉に釣られて、Fさんは休日にその神社を訪ねた。
田んぼに囲まれた中でそこだけ森になっていて、森の中心に神社がある。大きい神社ではないものの境内は綺麗に掃き清められており、社殿も清潔そうだ。普段から大切にされているのがわかった。
確かに先輩の言う通り、境内に足を踏み入れたときに空気が変わったような気がした。
人の姿は他になく扉の閉ざされた社殿の前に立つと、Fさんは厳粛な気持ちで柏手を打ち、礼をした。
どちゃり――すぐ傍で重い音がした。
足元に目を向けると、砂が帯状に積もっている。
見回して驚いた。自分を中心にしてドーナツ状に砂が溜まっている。
当然来たときにはこんなものはなかったから、たった今砂が積もったとしか考えられない。頭上から落ちてきたはずはないが、自分からこれだけの砂が落ちたということもありえない。
何かが落ちたような音も、砂ではなくもっと湿ったかたまりが落ちたような鈍い音だった。しかしそれらしきものは見当たらない。
音はともかくとして、砂をそのままにしてはせっかく綺麗な境内が台無しになってしまう。Fさんはそう思って、社殿の裏に吊るしてあった箒を借りて砂を掃き散らしてから立ち去った。
それ以来Fさんが原因不明の不調を感じることはなくなったので、お礼参りして多めにお賽銭を入れてきたという。