Aさんが小学五年生の時のこと。
冬休みのある日の午後、仲のいい友達数人と町の神社に集まって隠れんぼをしていた。
縁の下で息を潜めて隠れていたAさんだったが、突然そこへザワザワと境内の木々が一斉に鳴る音が聞こえてきた。
一瞬遅れて、真夏の風のような熱い空気がAさんの潜む縁の下に勢いよく吹き込んだ。
真冬のこと、自然にそんな熱い風が吹いてくるはずがない。
(……火事や!)
隠れんぼどころではない。Aさんは慌てて縁の下から這い出して走った。
参道の石畳には他の友達も集まっていて、口々に熱い風について話し合っている。どうやら皆があの風に当たったようだった。
しかし神社の周囲を見回しても、火の手はおろか煙すら見えない。熱風どころか境内に時折吹く風は季節相応に冷たかった。
火事やなかったんかな。
でもあんな熱い風、火事やないならなんなの?
皆の話を総合すると、隠れていた場所はバラバラだったのにもかかわらず皆が一斉にあの熱い空気に触れていたらしかった。つまり神社全体が一度に熱い空気に包まれたことになる。
一体どういうことだろう、とAさんたちが顔を見合わせているとそこへ近所のおじさんが箒を手にやってきた。
近くで火事なかった?と聞いてみたもののそんなことはないという。
今体験したことを話すと、おじさんは顔をしかめて言った。
――神社の境内で拝みもせんと遊んどるから神さんが怒っとるんや。
Aさんたちは揃ってお社に手を合わせてから帰ったという。