ぬくもり

春先の深夜、Sさんがベッドに横になった時、妙なぬくもりを感じた。
風呂上がりでSさんの体も温まっている。だがそれ以上に布団が温かく感じるのだ。
まだ寒い季節だから、布団が温かいのは嬉しい。だが暖房もつけていないのに布団がひとりでに温まっているはずがない。
まるでつい今しがたまでそこに誰かが寝ていたようなぬくもり。
それが何だか気持ち悪くて、Sさんはすぐに起き上がってベッドを降りた。
どうして布団が温まっているのかはわからないが、それを考えるのが億劫なくらいには眠い。しかし布団が冷たくならないと気分が悪くて眠れそうにない。
イライラしながら掛け布団を持ち上げて冷まそうとした。
一分ほどしてそろそろいいかなとシーツの上に手を置いてみたが、まだ先ほどと同じように温かいままだ。
枕の辺りから脚の方まで、人肌のように温かい。
しかしあちこちに手を当てているうちに、温度差があることに気がついた。ベッドの真ん中あたりは温かいのに、端の方はそうでもない。
温かい場所は、いつもSさんが寝ている範囲と大体重なっている。
しかも奇妙なことに、シーツに当てた手の甲まで温かい。温かいのはシーツだけでなく、その上の空気も同様らしい。
手をベッドの上に泳がせてみると、温かい空気のかたまりが細長くそこに横たわっているのがわかる。明らかにそこ以外の空間とは温度が違う。
わけがわからなかったものの、眠気もあってついにSさんは癇癪を起こした。


は!? なんなのこれ? 気持ち悪いなあ!


そう吐き捨てるように叫んだ直後である。


パパパパパッ!


壁にかけてあるカレンダーが、ひとりでに勢いよくめくれ上がった。
閉め切った部屋の中だ。風が吹くはずもない。
驚いたSさんが咄嗟に手をついたベッドは、もうすっかり冷たくなっていたという。